Masukルナフレアに見送られて、玉座の間の裏手にある王の執務室までやってきた。カリナが廊下を歩いている間、やたらと兵士や城仕えの侍女達に「可愛い」「あの子がカーズ様の妹君か」などと噂話をする声が聞こえてきた。ひらひらの衣装を着ているだけで恥ずかしいのに、何とも言えない気分になる。
執務室の入り口のドアの両脇にはアステリオンと近衛騎士団長のクラウスが待っていた。
「気にし過ぎですよクラウス。陛下とも顔見知りのようでしたし、カーズ様の妹君なら滅多なことなど起こりませんよ」
「いや、あの娘は何か異常な力を持っている。俺の剣が掴まれただけで動かせなかったのだ。妙な力を使ったに違いない。何かあれば我々が陛下をお守りしなければ……」
「陛下がそう簡単にやられるとは思いませんが……。おや、到着ですね。カリナ様、では此方へどうぞ」
アステリオンがドアを開けて中へ導いてくれる。クラウスは憮然とした表情でカリナの方を見た。
「妙な真似をするなよ。陛下に何かあれば許さんからな」
「いや、ただ呼ばれたから話をしに来ただけなんだけど」
「そんな衣装を着て、陛下を誘惑でもする気なのか?」
カリナの来ているファンシーな衣装を見て、クラウスは意味不明なことを言い、右手を剣の柄にかけている。カリナはそんなことを想像するだけで気持ち悪くなった。
「いや、しないから。話するだけだから」
アステリオンに一礼をして、クラウスをじとーっと見た。
「お前達、いつまで私を待たせる気だ!」
中からカシューが怒った演技の声を出した。
「「申し訳ありません!」」
二人は謝罪をすると、カリナを部屋の中に送りドアを閉めた。
執務室のデスクにいるブルーの髪色をしたカシューがカリナの方を見て、もう邪魔は入らないなという風に笑顔になった。100年経過しているということだがまるで年老いていない。かつて共に冒険をしたときの姿のままだ。
「国王のロールプレイをこなすのも大変そうだな」
デスクの前のソファーにどかっと腰掛けてからカリナが言った。
「そうなんだよね、我ながらよくやってると思わない?」
カシューは恰好を崩した口調で答えた。一応国王をやっているので、配下の前では威厳のある態度で通しているのだ。それが久々に現れた友人の前で素に戻る。
「そう思う。俺には無理だ」
「だったらもっと褒めてよー。君達がいない間大変だったんだからさー」
デスクに突っ伏してぐだぐだと愚痴をこぼすカシュー。
「おー、よしよし。偽物のおっぱいでいいなら揉ませてやるぞー」
友人同士のたわいもない冗談が飛び交う。
「いやいや、それはさすがにキツイ。で、色々聞きたいことがあるんでしょ?」
ふっと真面目な顔になって互いに腕を体の前で組んだ。
「ああ、まずこの世界はどうなっている? NPCもまるで生きているみたいな反応をするし、100年経っているとか言うし、ログアウトもできない。何が何やらさっぱりだ」
「うーん、まあそうだね……。確かにこれまでのNPCだった者達は僕達と同じで生きている。人格もちゃんとある。最初は僕も多分君と同じでただのアップデートがあったのかと思ったよ」
ふぅと溜め息を吐きながら、カシューは真面目な表情になって語り始める。
「100年前、初期五大国に悪魔の大軍が攻めて来たんだ。人類は多大な犠牲を払って何とかこれを撃退したんだけど、そのときからPC達はほとんど姿を消してしまったんだ。うちの国も被害は甚大。他国とPvPなんてやってる場合じゃなくなってね。今後に備えて国力を蓄えている最中だよ。またいつ悪魔達が攻めて来るか分かったもんじゃないからね」
「防衛力では誰も太刀打ちできない初期大国がそこまでの被害を出したってのか? 嘘だろ……」
初期五大国はプレイ開始時にとりあえずどこかを選択してスタートするという、MMOではよくある初期設定である。その分その大国は防衛NPCのレベルが異常に高く、戦争を仕掛けても一方的にボコボコにされる。そのため、PvPで五大国を倒すのがある意味エンドコンテンツに近いものという扱いである。その大国達が甚大な被害を受けるということは攻めて来た悪魔のレベルが異常か、数が異常かのどちらかであろう。
「で、カーズ、いや今はカリナのキャラか。この100年間、君は今まで何をしていたんだい?」
「何をしてたと言われてもなあ……。ちょっとログアウトして入り直したら今の惨状だったってだけだぞ。まさかほんの数分ログアウトしていただけでそんなことになっているなんて、意味がわからないのはこっちだって。しかもコマンドが機能しないし、ステータスも開けないんだ」
目の前の空間を指でスワイプする。今までならそれで現在レベルやステータスなどが表示されていたのだ。それが全く機能しない。
「あー、それね。多分レベルとかステータスの概念は無くなってるよ。現実世界と同様に鍛えた分しか強くなれない。スキルは覚えたり使えるけど。でもね、冒険者の腕輪、ここをこうすると……」
カシューが左手首にある細い腕輪の赤いボタンを押す。
「ほら、フレンドリストやマップ、所属ギルドや王国なんかが見れるよ。そして黄色のボタンでアイテムボックスも開ける。残念ながらログアウトなんかの機能はもれなくなくなってるけどね」カシューがやった様に、左腕にある腕輪を操作すると、カリナの眼前に各種情報がウインドウの様にオープンした。やはりログアウトのボタンはない。
「ね? あ、あとアイテムはアイテムボックスから直接取り出せるよ。制限は今のところないみたいだから、大切なものは今までみたいに個人アカウントの共同倉庫とかに入れてたりなんかすると……」
「ほう、入れてたら?」
「それが使えなくなった。だから持ち歩かないのなら部屋にでも置いておくことだね。はあー、僕のコレクションの宝剣や鎧やらレアドロップが全部水の泡だよー」
「ま、マジか……。俺もカーズのときに集めた聖剣やら魔剣が入れっぱなしだったぞ」
アイテムはボックスに持ち切れない物は全てアカウント共有のサーバー倉庫に幾らでも保管することができた。有料アイテムではあるのだが。どうしても捨てるのがもったいない物なんかは全てそこに突っ込んであった。レアアイテムなどが一瞬で消え去ってしまった事実を知ってショックを受ける。
「まぁ、もうどうしようもないから諦めたよ。それに今は国家運営が第一だから、僕が勝手に旅に出る訳にもいかないからね。権力者は大変だよー」
カシューの心が泣いているのをカリナは感じた。いや自分も大切なコレクションが消えたことはショックなのだが、カシューの方が身動きが取れない分不憫に感じられる。
「うん、まあそれは仕方ないから諦めるとしよう。また手に入れればいいだけだしな。ところで、もしこの世界で死んだらどうなるんだ? 教会の女神像の前で復活するのか?」
ゲームが現実になっているのは、もう散々理解できた。だがゲーム内の死が本当の死になるのかは別問題である。
「うーん、死んだことがないからわからないけど、多分本当に死ぬんじゃないかなと思う。100年も経った時間を生きてると周りの人間と死別することだってたくさんあったからね」
「でもそれはNPCの話だろう? 俺達はPCだぞ。まさか……」
カリナはそう言うと腰から片手剣のティルヴィングを左手で抜いた。その刃を右手の甲に近づける。スッと軽く斬り付けると、そこから真っ赤な鮮血がじわりとあふれ出た。鋭い痛みに血が流れる感触。ぞわっとした感覚がして、すぐに回復魔法で傷を塞いだ。
「ちょっと、何やってるのさ! そんなの血が出るに決まってるじゃないか! しかもそんな切れ味の剣で斬るとか、手首が飛んでもおかしくないよ!」
カシューの反応と自身の身体で感じた痛覚で全てを悟った。
「済まない。ちょっと気になったんだよ。でも理解した。痛覚もちゃんとあるし、血液がエフェクトではなくてちゃんと流れている。ゴブリンを斬った時も肉を斬り裂く感触がしっかりとあったし、返り血まで浴びたんだ。普段なら消える死体も残っていた。これは現実だ。致命傷を負えば死ぬ……」
「わかってくれて良かったよ。しかし相変わらず無茶するんだからさあ、寿命が縮まったよ」
もはやVRMMOなんかではない。これはリアルな現実世界だ。己の血を流して改めて理解できた。
「まぁ、わかってくれたのなら良かったよ。だから対人戦になっても無闇に剣を抜くのはお勧めしないよ。魔物相手なら別だけどね」
ほっと一息をついて、カシューは安堵した。
「で、話は変わるけど、やっぱりその恰好は恥ずかしいかい?」
カリナが着ているフリフリの衣装を指差しながらカシューがにやけた。我に返ったカリナの顔が赤くなる。
「お前なあ……。当たり前だろ、わざわざメイド隊を部屋まで寄こしてくれて。これじゃまるで魔法少女だよ」
「あはは、リア達はノリノリだったからねぇ。今はもう次の素敵衣装の制作に取りかかってるみたいだよ」
ニヤニヤとカシューが笑う。「今後も着せ替え人形役よろしくね」と悪戯好きな笑顔で言う。
「スカートのときは股を閉じた方がいいよ」
「うるさいな。あ、そうだ、アバターボックス持ってるか? あれがあれば男キャラに作り直せる!」
「課金アイテムのやつだよね、まあ一応一つ持ってるけど……」
そう言ってカシューはアイテムボックスから課金アイテムのアバターボックスを取り出した。そのままカリナの目の前に立ち上がって持ってくる。
「それだ、頼む譲ってくれ! 何でもするから!」
「まあ別にあげるのは構わないんだけどねー」
そう言ってカリナはその箱に手を伸ばしたが、手が宙を切る。そして勢い余ってカシューを押し倒してしまった。ドスンという音が室内に響く。
「何事ですか、陛下! なっ、貴様やはり本性を現したな!」
クラウスが剣を抜いて室内に飛び込んで来た。その後ろからやれやれという顔でアステリオンも顔を出す。
カシューの腰の上にカリナが跨がっている状態。変な疑いを掛けられても仕方がない体勢だった。
「まぁまぁ、クラウス。一見彼女が陛下を押し倒したかの様に見えますが、陛下の手を見て下さい。しっかりと両手で揉んでいらっしゃいます。どうせ何かの拍子に二人して尻もちを着いただけでしょう。さあ、お邪魔してはいけません。我々は席を外しますよ」
なんとも冷静な分析である。しかもカシューの両手はカリナを押しのけようとして、その双丘に押し付けられていた。これではどちらが悪いとも言えない。
「お前ら、何か勘違いしてないか?」
入って来た二人にやれやれという顔で応じるカリナ。
「そうだぞ、私がそのような不埒な真似をするわけがなかろう! ただの事故だ。わかったらさっさと出て行け!」
国王らしい口調でカシューが反論する。
「いいではありませんか、カリナ様ならカーズ様の妹君。血筋の問題はありませんよ」
「うむむ……、これは陛下のお世継ぎの問題でもあるのか……」
ぶつぶつと言いながら二人は退室して行った。立ち上がるカリナとカシュー。はー、と長いため息を吐く。
「わかったでしょ、課金アイテムは譲渡禁止。ゲーム時代からそうだったじゃないか」
「そうだった……。気が動転していた。すまん」
ソファーに向かい合って腰掛ける。そのとき隣の部屋から大人びた女性の声と共に王国の魔法使い筆頭のエクリアが入って来た。ウェーブの掛かった金髪のロングヘアー。魔法使いらしい白いローブだが、インナーは少々露出が多いセクシーな衣服となっている。彼女もまたカリナとは旧知の仲である。
「カリナが帰って来たってのは本当か?!」
まだまだ執務室での談義は終わりそうにない。
一夜明け、ザラーの街に清々しい朝が訪れた。窓から差し込む陽光に目を細めながら、カリナはベッド脇の例の「メイド隊からの衣装」セットの二つ目を取り出した。「……さて、今日の『着せ替え』はなんだ?」 恐る恐る広げたその衣装を見て、カリナは天を仰いだ。「あいつら……本当に森に行く気があるのか?」 そこに入っていたのは、白を基調とし、鮮やかな黄緑と黄色のリボンやフリルがあしらわれた、体のラインが出るタイトなローブ。しかもフードには、ふっくらとした「猫耳」がついている。インナーは紫に白と黒のデザインが施されたシックなワンピースだが、足元はガーターベルト付きの白いニーハイソックスに、黒地に白いラインが入ったショートブーツという、絶対領域を強調するような組み合わせだ。「防御力と動きやすさは最高級の素材らしいが……この猫耳は必要なのか? 完全にコスプレじゃないか」 ブツブツ文句を言いつつも着替えて鏡の前に立つと、そこにはあざといほどに可愛い「猫耳魔法少女」が完成していた。悔しいが、サイズも完璧だ。「ま、誰も見てない森の中だ。我慢するか」 フードを被って猫耳をピコピコさせながら、身だしなみを整えて隊員と共に階下へ降りる。「おはようございますにゃ、隊長。今日もバッチリ可愛いですにゃ」 「うるさい。行くぞ」 食堂に降りると、女将さんが満面の笑みで駆け寄ってきた。「おはよう、英雄さん! 昨日はあんたのおかげで、夜遅くまで祝杯を挙げる客で大忙しだったよ! 街を救ってくれて本当にありがとうねぇ」「いや、私はただのきっかけだ。皆が頑張ったからだよ」「謙虚だねぇ。さあ、今日はサービスで特盛にしておいたよ! しっかりおあがり!」 出された朝食は、厚切りのベーコンエッグに、山盛りのサラダ、そして焼きたてのパンと具沢山のスープ。カリナと隊員は感謝してそれを平らげ、エネルギーを充填した。 宿を出て、人目が少ない場所でペガサスを召喚する。カリナは猫耳フードを抑えながら天馬に跨り、北西の空へと舞い上がった。 ◆◆◆ ザラーの街を離れ、しばらく飛ぶと、眼下の景色は荒野から深い緑へと変わっていった。 『世界樹の森』。 その名の通り、視界の果てまで続く樹海だ。そしてその遥か彼方には、雲を突き抜けるほど巨大な一本の樹――世界樹が鎮座している。「でかいな……。遠近感がお
「うおおおおおおっ!! 勝ったぞぉぉぉぉ!!」 「我々の勝利だ! アレキサンド万歳! 緑の戦女神、万歳!」 総裁バズズが燃え尽き、残った魔物の群れが霧散したのを見届けた瞬間、砦に詰めていた騎士達や冒険者達から、大地を揺るがすような歓声が爆発した。彼らは武器を放り出し、兜を脱ぎ捨てて、戦場の中心で悪魔の素材を回収していたカリナの元へと駆け寄ってくる。「すげえ……本当に一人で、軍勢ごと悪魔を倒しちまったぞ……!」 「なんて強さだ、それに近くで見ると本当にお人形さんのように可愛らしい……!」 「あの細い腕のどこにあんな力が……。まさに戦場に降り立った女神だ!」 血と土埃にまみれたむさ苦しい男達が、キラキラした尊敬の眼差しでカリナを取り囲み、口々に称賛を浴びせる。その中心で、カリナの肩に乗ったケット・シー隊員は、ふんぞり返るように胸を張り、これ以上ないほどのドヤ顔を晒していた。「ふっふーん! 見たのにゃお前達! これが隊長の実力にゃ! もっと褒めて、もっと崇めるにゃ!」 まるで自分が倒したかのような態度だが、誰もそれを咎めない。むしろ「何だこの猫可愛いな」と頭を撫でられ、満更でもなさそうだ。 一方、当のカリナは居心地が悪そうに頬を掻いた。「いや、戦乙女とか女神とか、そういうのは止めてくれ。私はただの冒険者だよ」「ご謙遜を! 貴女様は今日、間違いなくこのザラーの街を、いや、アレキサンドの危機を救って下さったのです!」 指揮官を務めていたアレキサンドの騎士団長らしき男が、カリナの前に進み出て最敬礼をした。「この武功、必ずや本国のアレキサンド国王陛下にご報告致します。貴女様のような英雄が訪れてくれたとなれば、陛下も大層お喜びになるでしょう。是非いつか、王都へもお越しください。国を挙げて歓迎致します!」「あ、ああ……機会があればな」 熱烈な歓迎ぶりに、カリナはタジタジだ。このままでは胴上げでもされかねない雰囲気を感じ取り、カリナは素早く空を見上げた。「では、私は報告があるから戻る。後は任せるよ」「はっ! この御恩は忘れません! 緑の戦乙女に栄光あれ!」「戦乙女に栄光あれ!!」 数百人の兵士達が一斉に剣を掲げ、勝鬨を上げる。その熱狂的な声を背に受けて、カリナは再びペガサスを召喚し、隊員と共に空へと舞い上がった。 太陽はまだ高く、まぶしい日差しが照り
ヒースの部屋を出てロビーに戻ると、そこは殺気立った空気に包まれていた。 負傷している者、装備を点検して飛び出していく者。怒号と悲鳴が飛び交う中、数人の冒険者が地図を囲んで深刻な顔で話し合っているのが耳に入った。「南西の防衛線が危ない! 急造の砦を築いて凌いでいるが、魔物の数が多すぎる!」 「正規軍の騎士団も限界だ。このままじゃザラーまで雪崩れ込んでくるぞ!」 彼らの会話を聞いたカリナは、迷わず彼らの元へと歩み寄った。「その南西の砦、私が加勢に行こう」 凛とした声に、冒険者達が振り返る。だが、彼らの目に映ったのは、フリルたっぷりの緑のドレスコートを着た、深窓の令嬢のような美少女と、二足歩行の猫だった。「はぁ? なんだお嬢ちゃん、迷子か?」 「悪いが今は遊んでる場合じゃねぇんだ。お人形さんごっこなら他所でやってくれ」 男達は呆れたように手を振って追い払おうとする。無理もない。この血生臭い状況に、カリナの姿はあまりにも不釣り合いだった。「遊びじゃない。私は冒険者だ。その砦に向かうと言っているんだ」 カリナが出口へ向かおうとすると、男達が慌てて立ちはだかった。「おい待て待て! 死にに行く気か!?」 「そこはピクニックに行く場所じゃねぇんだぞ! そんなフリフリの恰好で戦場に行ってみろ、魔物の餌になるだけだ!」 「悪いことは言わねぇ、家に帰ってママのミルクでも飲んでな!」「隊長は凄いのにゃ! お前達こそ控えおろうなのにゃ!」 彼らは本気で心配し、必死に止めようとしている。根は良い奴らなのだろう。だが、今は一刻を争う。カリナは懐からAランクのギルドカードを取り出し、彼らの目の前に提示した。「忠告は感謝する。だが、心配は無用だ。私はAランク冒険者のカリナ。組合長ヒースからも直々に討伐の許可を得ている」 黄金色に輝くカードを見た瞬間、男達の顔色が変わり、ロビー中がどよめいた。「え、Aランク……!? この歳でか!?」 「ま、待てよ、カリナって……あのルミナス聖光国を救ったっていう、エデンの凄腕召喚士か!?」 噂はここまで届いていたらしい。彼らの表情が、驚愕から縋るような希望へと変わる。「あんたがあの英雄なのか……?! 俺達じゃどうにもなんねぇ数なんだ! 頼む、仲間達を助けてやってくれ!」「ああ、任された。吉報を待っていてくれ」「任せておくにゃ」
エデンを飛び立ち、ペガサスに乗って北西へ。眼下には雄大な景色が広がる。高度が上がるにつれ風は冷たくなり始めていたが、ペガサスの発する魔力の加護と、ルナフレアから渡された厚手のコートのおかげで、空の旅は快適そのものだった。 やがて右手遠くに、堅牢な城壁に囲まれた巨大な都市が見えてきた。無数の塔と城壁が幾重にも連なる、武骨ながらも美しい石造りの国。「あれが初期五大国の一つ、今の騎士国アレキサンドか……」 かつてゲーム時代、メインキャラであるカーズも、そしてこのサブキャラであるカリナも、冒険のスタート地点として選んだのがこの国だった。騎士や剣士など、物理防御と攻撃に特化した兵科を多く輩出する国。兄設定であるカーズがカシュー達とエデンを建国するずっと前、初心者時代に剣の腕を磨いた場所でもある。懐かしい景色に目を細めつつ、カリナはそこを通過し、さらに西へと進路を取った。 何度か地上に降りてペガサスを休ませ、隊員と軽食をとりながら進むうちに、太陽は西の地平線へと沈みかけ、空が紫と茜色のグラデーションに染まり始めた。「隊長、そろそろ日が暮れますにゃ。お腹も空いたにゃ」「そうだな。夜間の飛行は視界も悪いし、今日はこの辺りで宿をとろう」 カリナは眼下に見えてきた街の近くにペガサスを降ろした。労いの言葉と共に送還し、隊員を連れて徒歩で街の南門へと向かう。 見えてきたのは、高い石壁に囲まれた街。近づくにつれ、カリナは違和感を覚えた。記憶にあるここ「ザラーの街」は、ゲーム開始直後のプレイヤーが集まる、のどかで開放的な初心者用の街だったはずだ。 だが、目の前にあるのは、無数の傷跡が刻まれた分厚い城壁と、物々しいバリケード。100年という時は、平和だった始まりの街を、魔物の脅威に晒される最前線の拠点へと変貌させていたのだ。 石造りの門の前には、二人の兵士が立っていた。槍を持ち、アレキサンドの紋章が入った鎧を着ているが、その眼差しは鋭く、妙に殺気立っている。「止まれ。これより先はアレキサンド領ザラーの街だ。身分証の提示を」「ああ、冒険者だ」 カリナは首に掛けていたギルドカードを外し、兵士に手渡した。兵士は事務的な手つきでカードを受け取り、そこに刻まれたランクと名前を確認する。そして次の瞬間、その目が驚愕に見開かれた。「えっ……Aランク!? それに、名前はカリナ……
演習場での模擬戦は、カリナの圧倒的な勝利に終わった。リーサは完膚なきまでに叩きのめされたが、その表情は晴れやかだった。目の当たりにした召喚術の神髄に、彼女は心の底から感動していたのだ。 その後、一行は玉座の間へと移動した。カシュー王が玉座に腰を下ろし、エクリア、アステリオン、レミリア、そしてカリナとリーサがその前に並ぶ。騎士団の面々やルナフレアは、少し離れた場所で見守っていた。 カシュー王が威厳のある声で告げる。「これより、エルフの召喚士リーサを、エデン王国筆頭召喚術士カリナの代行として任命する」リーサは緊張した面持ちで、カシュー王の言葉に耳を傾ける。「リーサよ、カリナはエデンの特記戦力であり、その力は我が国の要である。しかし、彼女は多忙な身であり、常にこの地に留まることはできない。其方には、彼女の不在時にその力を代行し、エデンを守る重要な役割を担ってもらいたい」「ははっ、身に余る光栄にございます」 リーサは深く頭を下げ、カシュー王の言葉を承諾した。「カリナ、其方からも言葉をかけてやってくれ」 カシュー王に促され、カリナが前に出る。彼女はリーサを見つめ、静かに語りかけた。「リーサ、お前の実力は認める。だが、召喚術の道は険しい。決して慢心せず、精進を怠るなよ」「はい! 肝に銘じます、師匠!」「だから師匠はやめろと言っただろう」 カリナは苦笑しながらも、リーサの熱意を嬉しく思っていた。「リーサ、お前には期待している。エデンを、そして民を守るために、力を貸してくれ」「はい! この命に代えても、エデンをお守りします!」 リーサは力強く宣言し、カリナに忠誠を誓った。その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。 カシュー王は満足げに頷き、玉座から立ち上がった。「うむ。これにて任命式を終了する。皆の者、これからもエデンのために力を尽くしてくれ!」「はっ!」 玉座の間に、騎士達の力強い声が響き渡る。 こうして、エデンに新たな優秀な召喚士が加わった。リーサはカリナの代行として、そして一番弟子として、召喚術の道を歩み始めることとなる。 その後、カシュー王は皆を労い、祝宴が開かれることとなった。宴の席では、騎士達がカリナの武勇伝を語り合い、リーサも熱心に耳を傾けていた。 カリナはルナフレアにジュースのグラスを傾けながら、静かに呟いた。「これ
翌日の正午過ぎ。太陽が真上に昇り、演習場の砂埃を照らす頃、カリナはルナフレアを伴って騎士団演習場の門をくぐった。 門番の兵士達は、昨日カリナが見せた伝説級の精霊との戦いを目の当たりにしているため、最敬礼でカリナを出迎える。その瞳には畏敬の念が宿っていた。 演習場に入ると、円形の闘技場を見下ろす観覧席には、昨日の今日だというのに、またしても主要なメンバーが勢揃いしていた。 中央の貴賓席には、面白そうに身を乗り出すカシューと、その隣で扇子を片手に優雅に微笑む、完璧な美女の振りをしたエクリア。その後ろには、胃薬でも欲しそうな顔をしたアステリオンと、エクリアの代行であるレミリアが控えている。 騎士団席には、近衛騎士団長のクラウス、王国騎士団副団長のライアンをはじめとする騎士達。そして、戦車隊隊長のガレウスまでもが、「また凄いもんが見れるかもしれん」と最前列に陣取っていた。「やれやれ、暇人が多いなあ」 カリナが苦笑すると、隣を歩くルナフレアがくすりと笑った。「それだけカリナ様の力が注目されているということですよ。……では、私はあちらへ」 ルナフレアは演習場の端、関係者用の席へ向かう前に足を止め、カリナに向かって深々と頭を下げた。「カリナ様、あの世間知らずのエルフに、本物の召喚術というものをご教示なさって下さい。御武運を」「ああ、任せておけ。見ていてくれ」 ルナフレアの言葉に軽く手を振って応え、カリナは演習場の中央へと歩みを進める。そこには既に、対戦相手であるエルフの召喚士、リーサが待ち構えていた。 召喚士特有のローブを風になびかせ、手には身の丈ほどの樫の木の杖を握りしめている。その表情は硬いが、瞳には決して折れない強い意志と、カリナに対する侮りにも似た対抗心が燃えていた。「お待ちしておりました。逃げずに来たことだけは褒めて差し上げます」 リーサは杖の先をカリナに向け、挑発的な視線を送る。「陛下やアステリオン様が何を考えているのかは分かりませんが、召喚術とは長い修練と精霊との対話によってのみ成される神聖な儀式。あなたのような子供に務まるような軽いものではありません」 彼女の言葉に、観客席の騎士達がざわつく。「おいおい、死んだわあいつ……」「昨日のあれを見てないからって……」といった同情の声が漏れ聞こえてくるが、リーサの耳には届いて